【フランス、アキテーヌ、キャビア産地視察】

一般社団法人日本キャビアソムリエ協会代表理事出口彰がフランスのキャビア産地を訪問しました。

■ フランスを代表するキャビアブランド「ストゥーリア」

ストゥーリアは、フランス南西部・アキテーヌ地方(ジロンド県)を拠点に、1980年代初頭から養殖キャビアの生産を開始したフランスを代表するキャビアメーカーです。
長年にわたり培われた養殖技術と品質管理により、世界中のレストランや美食家から高い評価を受けています。
さらに、ストゥーリアが生産する「Caviar d’Aquitaine(アキテーヌ・キャビア)」は、EUのIGP(保護地理的表示)認証を取得しており、地域性と品質を兼ね備えた世界的ブランドとして確固たる地位を築いています。

■ IGP認証とは

ストゥーリアの 「Caviar d’Aquitaine(アキテーヌ・キャビア)」 は、 EUのIGP(Indication Géographique Protégée:保護地理的表示)認証を取得しています。 IGPとは、「その土地だからこそ生まれる 品質や伝統」を保護するEUの品質認証制度で、 ワイン・チーズ・ハム・オリーブオイル などにも採用されています。 ストゥーリアが認証された主な 理由は次の4つです。

① アキテーヌ地方の自然環境

・清らかな湧水
・大西洋性気候
・豊富な水資源
これらがチョウザメの養殖に最適な 環境を生み出しています。

② 一貫生産

チョウザメの養殖
採卵
塩漬け
熟成
缶詰
すべてを地域内で管理し、 高い品質とトレーサビリティを実現しています。

③ 長年培われた技術

採卵のタイミング、塩分濃度、 熟成期間などを独自に研究し、 高品質なキャビアを安定して生産しています。

④ 地域ブランドとしての評価

自然環境・生産技術・歴史が評価され、 約10年に及ぶ申請期間を経て IGP認証を取得しました。

■ 日本キャビアソムリエ協会が考えるIGPの価値

今回の視察を通じて印象的だったのは、産地そのものの価値を守る仕組みづくりに力を注いでいることでした。
IGP認証は品質を保証する制度であると同時に、生産者・地域・文化を未来へ継承するための制度でもあります。ワインにおけるAOCやチーズの原産地保護と同様に、キャビアもまた「どこで、誰が、どのように育てたのか」が重要な価値となる時代へと移りつつあります。

■ キャビアもテロワールを語る時代へ

ワインの世界では「テロワール」という考え方が広く知られています。
土壌、気候、水、そして造り手の哲学が味わいを形づくるという考え方です。
今回の視察では、キャビアにも同様の概念が存在することを改めて実感しました。

同じチョウザメの種類であっても、
・水質
・餌
・水温
・熟成期間
・塩の種類
・塩漬け方法

これらの違いによって味わいは大きく変化します。
つまり、キャビアもワイン同様、「土地の個性を味わう食文化」と言えるでしょう。

■ジロンド川沿いの養殖場へ

まず初めにストゥーリアの養殖場を訪問しました。*入り口で靴の裏を消毒液で消毒します。
水は少し濁っていますが、 これは水質が悪いという意味ではありません。 むしろチョウザメにとっては 大きなメリットがあります。

■ 適度な濁りがもたらす効果

① ストレス軽減

チョウザメは河川や河口など、 もともと透明ではない水域に生息しています。 適度な濁りによって ・光が和らぐ ・周囲が見えすぎない ・驚いて暴れることが減る ため、ストレス軽減につながります。

② 水温が安定する

直射日光を遮ることで ・急激な水温上昇を防ぐ ・夏場の温度変化を緩やかにする 効果があります。

③ ケガの防止

興奮して壁へぶつかることが減るため、 擦り傷なども少なくなります。 ただし重要なのは、 「濁り」と「汚れ」は全く別物ということ。 天然由来の微粒子やプランクトンによる濁り であり、水質は厳しく管理されています。

見学した養殖池には、
・シベリアチョウザメ(バエリ)
・ロシアチョウザメ(オシェトラ)
・オオチョウザメ(ベルーガ) が悠々と泳いでいました。

■養殖場を後にし、本社へ

本社ではストゥーリア代表のローラン氏が出迎えて頂き、シャンパーニュと共に3種類のキャビアを試食させて頂きました。
・オシェトラ 上品な旨味とやや力強い塩味。 ナッツを思わせる香ばしさが印象的。

・ キャビア・ド・アキテーヌ(バエリ) クリーミーな口当たり。 磯の余韻が美しく続く、非常にエレガントな味わい。

・ ヴィンテージ・バエリ 熟成による凝縮感。 まろやかな塩味と深いコクが印象的。

白ブドウ100%のブラン・ド・ブランと合わせると、 キャビアの繊細さによって、シャンパーニュが甘く感じられる絶妙なマリアージュ。

さらにローラン氏が日本酒との相性を高く評価していることから、 日本から持参した大阪、浪花正宗とのペアリングも特別に実施しました。

ローラン氏のお気に入りは
「バエリ × シャンパーニュ」
「オシェトラ × 大吟醸」
という組み合わせでした。

私自身もそれぞれのキャビアに合う相性の方向性は同じでしたが、オシェトラには大吟醸よりも純米吟醸の方がアルコール感が穏やかで、より自然に寄り添う印象を受けました。
その点に関しては、フランスでは大吟醸が好評で純米酒系は”スムース(引っ掛かりのない、表面が滑らかで手触りが良い、の意味)”というコメントをいただきました。
あくまで嗜好品なので必ずしもそうという訳ではありませんが、純米酒に“軽さ”を感じるという意見はテイスティングされた方々から多く頂きました。

ただ、このようなディスカッションが国や文化を超えて、「キャビアと日本酒」という新たな可能性を改めて実感する時間となりました。

■ 日本キャビアの可能性

日本は豊富な水資源と四季に恵まれた国です。
日本各地で個性豊かな国産キャビアが生産されています。
今後は海外ブランドと競争するだけではなく、それぞれの地域が持つ自然環境や生産哲学を発信することで、「日本ならではのキャビア文化」を世界へ届けられる可能性があります。
今回のフランス視察は、その未来を考える上でも大変意義深い経験となりました。

■ 日本酒とのマリアージュが切り拓く新たな価値

ローラン氏が日本酒との相性に高い関心を示していたことは、日本の食文化にとっても大きな可能性を感じる事ができました。
これまでキャビアといえばシャンパーニュやウォッカとの組み合わせが定番とされてきましたが、日本酒は米由来の繊細な旨味を持ち、キャビアの塩味や熟成香を包み込むように調和します。日本キャビアソムリエ協会では、キャビアを単なる高級食材として紹介するのではなく、日本酒や地域食材との新たなペアリングを研究・発信し、日本ならではの楽しみ方を提案していきたいと考えています。

■ 視察を終えて

今回のストゥーリア訪問を通じて感じたのは、キャビアは単なる高級食材ではなく、生産地の自然環境、造り手の技術、そして文化や歴史が詰まった「テロワールを映す食文化」であるということです。

社団としても、国内外の生産者との交流を深めながら、正しい知識の普及と日本酒をはじめとする日本の食文化との融合を推進し、新たなキャビア文化の創造に取り組んでまいります。

協力:
ストゥーリア
(株)アルカン
(株)WINE TRAIL